歯医者トレーニングベスト9

口の中にできた赤い斑点。押してみても、触ってみても、特に痛みがない。そんな時、多くの人は「痛くないから、たいしたことはないだろう」と、つい放置してしまいがちです。しかし、この「痛みがない」という特徴こそが、見逃してはならない、危険な病気のサインである可能性をはらんでいます。口の中の病気において、「痛み」は必ずしも重症度と比例しません。むしろ、最も注意すべき病気の一つである「口腔がん」や、その一歩手前の状態である「前がん病変」は、初期段階ではほとんど痛みを伴わないのです。特に、警戒が必要なのが「紅板症（こうばんしょう）」と呼ばれる病変です。これは、口の中の粘膜が、鮮やかな赤色、あるいはビロードのような光沢のある赤い斑点状になる病気です。境界が比較的はっきりしており、指でこすっても色は変化しません。痛みやかゆみといった自覚症状は、全くと言っていいほどありません。この紅板症は、それ自体が「がん」ではありませんが、非常に高い確率でがん化することが知られており、「前がん病変」の中でも最も危険度が高いものとされています。見た目は、ただ赤くなっているだけに見えるため、単なる炎症や口内炎と勘違いされやすいのですが、自然に治ることはなく、放置すれば、その一部ががんに変わってしまうのです。また、「初期の口腔がん」そのものが、赤い斑点として現れることもあります。ただ赤いだけでなく、その部分が少し盛り上がっていたり、逆に少しへこんでいたり、あるいは硬いしこりを伴っていたりします。これも、初期には痛みがほとんどないため、気づかないうちに進行してしまうケースが少なくありません。では、心配のない一過性の赤い斑点と、これらの危険な病変をどう見分ければ良いのでしょうか。一つの大きな目安は、「時間」です。ぶつけたりしてできた内出血であれば、長くても1〜2週間で自然に薄くなり、消えていきます。しかし、危険な病変は、2週間以上たっても全く消える気配がなく、むしろ、じわじわと大きくなったり、色が濃くなったり、形が変わったりします。もし、あなたの口の中に、原因不明で痛みのない赤い斑点があり、それが2週間以上続いているのであれば、「痛くないから大丈夫」という油断は禁物です。すぐに歯科、特に口腔外科を標榜している医療機関を受診し、専門家による精密な診察を受けることを強くお勧めします。