それは、何の変哲もない火曜日の朝のことでした。歯磨きをしようと口を大きく開けた時、鏡に映った自分の上顎に、いくつかの小さな赤い斑点があることに気づきました。大きさは針の先ほどで、数個がまばらに散らばっています。痛みもかゆみも全くありません。昨日の夕食に、少し硬い煎餅を食べたから、その時にでも傷がついたのだろうか。最初は、そう軽く考えていました。しかし、その日の夜、再び鏡で確認すると、斑点は消えるどころか、少し数が増えているような気さえします。そこから、私の不安な日々が始まりました。スマートフォンを取り出し、「口の中 赤い斑点」と検索すると、画面には、心配になるような病名ばかりが並びます。ウイルス性の感染症、血液の病気、そして最悪のケースとして「がん」の文字も。痛みがないのが、かえって良くないサインだという記事を読み、私の心臓はドクンと音を立てました。それからというもの、一日に何十回も口の中を鏡でチェックし、斑点の数や大きさが変わっていないか、 obsessively に確認するようになりました。食事をしていても、仕事に集中しようとしても、頭の片隅には常に赤い斑点のことがあり、生きた心地がしませんでした。このまま一人で悩み続けても、何も解決しない。意を決した私は、三日後、近所の歯科医院の予約を取りました。診察台の上で、これまでの経緯と、ネットで見た情報による不安を、私は必死に先生に伝えました。先生は、私の話をじっくりと聞いた後、「心配でしたね。ちょっと見せてください」と、丁寧に口の中を診てくれました。そして、ライトを当てて隅々まで確認した後、こう言ったのです。「これは、おそらく一過性の点状出血ですね。特に悪いものではなさそうです」。先生によると、疲労やストレスで毛細血管が弱くなっている時に、食事などのささいな刺激で、このように小さな内出血ができることは珍しくないとのこと。特別な治療は必要なく、体の調子が整えば自然に消えていくでしょう、と。その言葉を聞いた瞬間、私の肩から、ずっしりと重かった鉛のような不安が一気に抜け落ちていきました。あの数日間の悩みは何だったのだろうと、少し拍子抜けするほどでした。この経験を通じて、私は、不確かな情報に振り回されず、まずは専門家の診断を仰ぐことの重要性を、心から学んだのです。