「歯科」と「口腔外科」の違いを理解する上で、治療を行う「医師の専門性」という観点から見ていくと、その違いはさらに明確になります。どちらの医師も、大学の歯学部を卒業し、歯科医師国家試験に合格した「歯科医師」であることには変わりありません。しかし、その後のキャリアパスや、習得する専門知識、技術には大きな違いがあるのです。一般的な「歯科医師」は、大学卒業後、研修を経て、多くは一般の歯科医院に勤務します。そこでは、虫歯、歯周病、入れ歯といった、幅広い分野の治療をオールラウンドにこなす能力が求められます。患者さんのライフステージを通して、長期的に口の健康を管理していく、いわば「口のかかりつけ医」としての役割を担います。特定の分野、例えば矯正や小児歯科などを深く学ぶために、学会に所属したり、研修会に参加したりして、専門性を高めていく医師もいます。一方、「口腔外科医」を目指す歯科医師は、大学卒業後、多くは大学病院の口腔外科や、地域の基幹病院の歯科口腔外科といった、高次の医療機関に所属します。そこで、指導医のもと、数年間にわたる専門的なトレーニングを受け、口腔外科医としての知識と技術を徹底的に叩き込まれます。手術の執刀経験を数多く積み、全身麻酔の管理や、点滴、緊急時の対応など、外科医として必要な全身管理の知識も習得します。そして、一定の基準を満たした医師は、「日本口腔外科学会」が認定する「認定医」や、さらに高度な「専門医」といった資格を取得します。この専門医資格は、口腔外科領域における高度な専門性を持つことの客観的な証明となります。つまり、口腔外科医は、歯科医師の中でも、特に「外科」という分野に特化したスペシャリスト集団なのです。彼らは、歯だけでなく、顎の骨、筋肉、神経、血管といった、口周りの解剖学的な構造を熟知しており、複雑な手術を安全に行うための訓練を積んでいます。この医師の専門性の違いこそが、一般歯科と口腔外科が、それぞれ異なる役割を担い、連携を取りながら、より質の高い医療を提供できる理由なのです。
医師の専門性から見る「歯科」と「口腔外科」の大きな違い