口の中を強く噛んでしまった後、傷は治ったはずなのに、その場所に、なんだか硬い「しこり」が残ってしまった。押してみても特に痛みはないけれど、舌で触ると常に気になる。これは何か悪いものではないだろうか、と不安になるかもしれません。多くの場合、口の中を噛んだ後にできる痛くないしこりは、「瘢痕(はんこん)」あるいは「線維化(せんいか)」と呼ばれる、傷が治る過程でできる、良性の組織です。皮膚の怪我をした後に、傷跡が少し硬く盛り上がることがあるのと同じ原理が、口の中の粘膜でも起こっているのです。私たちの体は、傷ができると、それを修復するために、コラーゲン線維などの組織をたくさん作ります。特に、同じ場所を繰り返し噛んでしまい、慢性的な刺激が加わり続けると、体は「この場所をもっと丈夫にしなければ」と判断し、通常よりも多くの線維組織を作り出して、その部分を硬く、厚くしてしまうことがあります。これが、しこりとして感じられるのです。この種のしこりは、基本的には悪性化するようなものではなく、心配はいりません。しかし、大きくなって食事や会話の邪魔になったり、そのしこりのせいで、さらに同じ場所を噛みやすくなってしまったりする場合には、問題となることがあります。また、ごく稀ですが、別の種類のしこりである可能性もゼロではありません。例えば、唾液を出す小さな管が傷ついて、唾液が溜まってしまう「粘液嚢胞」も、ぷくっとしたしこりとして現れます。これは、潰れては再発を繰り返すことがあります。もし、そのしこりが、数週間たっても消えない、あるいは徐々に大きくなっている、表面がただれて口内炎のようになっている、といった変化が見られる場合は、自己判断で放置するのは危険です。一度、歯科医院や口腔外科を受診し、専門家に診てもらうことをお勧めします。ほとんどの場合は、「これは心配ない傷跡ですよ」と診断され、安心することができます。そして、もし切除が必要な場合でも、簡単な処置で済むことが大半です。不安を抱え続けるよりも、まずは専門家の診断を仰ぐことが、心の平穏を取り戻すための最善策です。