口の中を噛んでしまい、その跡が白くなる。これは、傷が治る過程で起こる「外傷性潰瘍」という、ごく一般的な口内炎です。ほとんどの場合、心配する必要はありません。しかし、口の中にできる「白いもの」の中には、ごく稀に、注意すべき病気のサインが隠れていることがあります。噛んだことがきっかけだと思い込んでいても、実は全く別の問題が起きている可能性もゼロではないのです。では、通常の噛んだ跡の口内炎と、注意すべき病変は、どう見分ければ良いのでしょうか。まず、一般的な口内炎の特徴を覚えておきましょう。原因がはっきりしており(噛んだ、など)、形は円形や楕円形、境界が比較的はっきりしています。表面は白や黄白色の膜で覆われ、その周りは赤く炎症を起こしています。そして、何よりの特徴は「痛みを伴う」ことと、「1〜2週間で自然に治癒に向かう」ことです。一方で、注意すべき「白い病変」には、異なる特徴が見られます。代表的なのが「白板症(はくばんしょう)」です。これは、口の中の粘膜が、こすっても取れない白い板状、あるいは斑状になる病気で、「前がん病変」、つまり、がん化する可能性のある危険な状態とされています。痛みやかゆみなどの自覚症状は、ほとんどありません。また、「口腔がん」の初期症状として、白い病変が現れることもあります。がんの場合、ただ白くなっているだけでなく、硬いしこりを伴っていたり、表面がただれて潰瘍になっていたり、境界が不明瞭で、じわじわと周りに広がっていくような特徴が見られます。そして、最も重要なのが、初期のがんは「痛みがない」ことが多いという点です。痛みがないから大丈夫、という自己判断は非常に危険なのです。もちろん、これらの病気は非常に稀です。しかし、万が一の可能性を見逃さないために、セルフチェックの習慣が大切です。もし、あなたの口の中の白いものが、「2週間以上たっても全く治る気配がない」「痛みが全くない」「硬いしこりがある」「どんどん大きくなっている」といった特徴に当てはまる場合は、噛んだ跡だと決めつけず、できるだけ早く歯科医院、あるいは口腔外科を受診してください。