ある日、ふと鏡を見た時や、歯磨き中に、口の中に赤い斑点があることに気づくと、ドキッとするものです。「これは何かの病気だろうか?」と不安に駆られる方も多いのではないでしょうか。痛みがあれば口内炎だとわかりますが、痛みがない場合はなおさら心配になるかもしれません。口の中にできる赤い斑点の原因は、実に多岐にわたります。その多くは、心配のいらない一過性のものですが、中には注意すべき病気のサインが隠れていることもあります。最も一般的な原因は、物理的な刺激による「内出血」です。食事中に硬い食べ物が当たったり、歯ブラシで強くこすりすぎたり、あるいはうっかり粘膜を噛んでしまったりした際に、毛細血管が破れて、小さな点状の出血として現れることがあります。これは、皮膚にできる青あざと同じ原理で、通常は数日から一週間程度で自然に吸収され、消えていきます。また、熱い食べ物や飲み物による、軽い「火傷」も、粘膜が赤くなる原因となります。一方で、ウイルス感染が原因で赤い斑点ができることもあります。特に子供に多いのが、「ヘルパンギーナ」や「手足口病」です。これらは、喉の奥や上顎に、赤い斑点や水ぶくれができるのが特徴で、発熱を伴うことが多いです。さらに、全身の状態を反映して、口の中に症状が現れることもあります。例えば、血液を固める働きを持つ血小板が減少する病気(血小板減少性紫斑病など)では、ぶつけた覚えがないのに、歯茎や頬の粘膜に点状の出血斑が見られることがあります。また、ごく稀ではありますが、痛みや凹凸のない平坦な赤い斑点がなかなか消えない場合、「紅板症(こうばんしょう)」という、がん化する可能性のある前がん病変の可能性も考えられます。このように、口の中の赤い斑点は、ささいなものから注意を要するものまで、様々です。大切なのは、自己判断で放置しないこと。もし、斑点が数日経っても消えない、数が増えている、あるいは全身に他の症状も見られるといった場合は、まずはかかりつけの歯科医院や口腔外科を受診し、その正体を専門家に診断してもらうことが、安心への第一歩であり、万が一の病気の早期発見にもつながるのです。