私たち口腔外科医が、一人の患者さんを診る時、一般の歯科医師とは、少し異なる「視点」を持っているかもしれません。もちろん、どちらも口の中の健康を目指すというゴールは同じですが、アプローチする際の着眼点や、考慮する範囲に違いがあるのです。一般の歯科医師が、まず「歯」一本一本の状態にフォーカスし、いかにしてそれを保存し、機能させるか、という視点から治療計画を立てることが多いのに対し、私たち口腔外科医は、まず、その歯を取り巻く「顎の骨」や「歯茎」、「神経」、「血管」といった、より大きな解剖学的な構造、そして、時には「全身の状態」との関連性を重視する傾向があります。例えば、一本の親知らずを抜歯する際も、ただ「抜く」という行為だけでなく、その歯の根が、下顎の神経管とどのくらい近いのか、万が一傷つけた場合のリスクはどの程度か、そして、そのリスクを回避するために、どのような切開線を入れ、どの方向に力をかければ安全に抜けるのか、といった外科的なシミュレーションを頭の中で行います。また、口の中にできた一つの「できもの」を診る時も、それが良性か悪性かという鑑別はもちろんのこと、もし悪性だった場合、どの範囲まで切除する必要があるのか、切除した後の機能(食事や会話)や、見た目(顔貌)を、どうやって再建するか、ということまでを、初期の段階から見据えています。つまり、口腔外科医の視点は、常に「外科手術」を前提とした、マクロな視点と、ミクロな手技の両方を行き来していると言えます。そして、もう一つの大きな視点の違いは、「医科との連携」を常に意識していることです。高血圧や糖尿病、骨粗鬆症といった全身疾患が、口の中の外科処置にどう影響するのか。服用している薬は、手術の際に問題とならないか。そうした、口と全身のつながりを常に考え、必要であれば、ためらわずに医科の主治医と連絡を取り、情報を共有します。これは、大学病院など、医科併設の環境でトレーニングを積んできた口腔外科医ならではの、体に染み付いた習慣かもしれません。このように、口腔外科医は、歯科医師でありながら、常に「外科医」としての視点を持ち、より広く、より深く、患者さんの状態を捉えようとしているのです。
口腔外科医が語る、一般歯科医との「視点」の違い