私たちが「歯医者さん」と聞いてイメージするのは、多くの場合、キーンという音を立てて虫歯を削る姿や、歯石をカリカリと取る姿でしょう。これらはもちろん、歯科医療の重要な一部ですが、「口腔外科」という分野に目を向けると、そのイメージは大きく覆されるかもしれません。口腔外科が扱う範囲は、私たちが想像するよりもずっと広く、時には医科の領域とも密接に関わる、ダイナミックな治療を行っているのです。例えば、口腔外科では「がん」の治療も行います。口の中にできる「口腔がん」は、舌や歯茎、頬の粘膜など、様々な場所に発生します。口腔外科医は、がんの早期発見から、診断を確定させるための組織検査(生検)、そして手術によるがんの切除までを担当します。がんが進行している場合は、顎の骨や、首のリンパ節まで含めた、大規模な切除手術を行うこともあります。手術後は、失われた組織や機能を再建するために、体の他の部分から皮膚や骨を移植する「再建外科」の技術も駆使します。また、「顔の形の悩み」にも対応します。例えば、「受け口(下顎前突)」や「出っ歯(上顎前突)」など、骨格的な問題が原因で噛み合わせが大きくずれている場合、「外科的矯正治療(顎変形症治療)」という手術を行います。これは、顎の骨を一度切り離し、正しい位置に移動させてから、プレートで固定するという、まさに顔の骨格を変える大掛かりな手術です。これにより、噛み合わせの機能だけでなく、顔貌も劇的に改善させることができます。さらに、「睡眠時無呼吸症候群」の治療にも関わることがあります。気道が狭くなる原因が、下顎が小さいことにある場合、専用のマウスピース(スリープスプリント)を作製したり、重症例では、下顎を前方に移動させる手術を行ったりすることもあります。このように、口腔外科は、単に歯を抜いたり、できものを取ったりするだけでなく、がん治療から、顔の骨格形成、そして呼吸の問題まで、口と顎を起点とした、人の「QOL(生活の質)」に深く関わる、非常に幅広い医療を提供している専門分野なのです。
「歯医者さん」のイメージを覆す?口腔外科の幅広い治療範囲