これまで見てきたように、「歯科」と「口腔外科」は、それぞれ異なる専門性を持ちながらも、密接に連携し、私たちの口の健康を守ってくれています。一般歯科が、日々の虫歯や歯周病を管理する「プライマリ・ケア」を担い、口腔外科が、より専門的な外科処置や難症例に対応する「セカンダリ・ケア」を担う。この連携は、今後さらに重要性を増していくと考えられます。そして、その未来の姿は、単に口の中の問題を解決するだけにとどまりません。「口から全身の健康を守る」という、より大きな視点へと進化していくでしょう。近年、様々な研究によって、口の中の健康状態が、全身の健康に極めて大きな影響を及ぼすことが、次々と明らかになっています。例えば、歯周病菌が、血管を通って全身に広がり、糖尿病を悪化させたり、心筋梗塞や脳梗塞、動脈硬化のリスクを高めたりすること。また、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の原因となることなどが、科学的に証明されています。このような背景から、医科の分野でも、口の中の環境を整える「口腔ケア」の重要性が、強く認識されるようになってきました。例えば、がんの手術や、心臓の手術といった、大きな手術を行う前に、医科の主治医から、口腔外科や歯科に、「術前口腔機能管理」の依頼が来ることが増えています。これは、手術の前に、口の中を徹底的にきれいにし、感染の温床となるような歯の問題を解決しておくことで、術後の肺炎などの合併症を予防し、患者さんの回復を早めることを目的としています。この時、口腔外科は、手術に影響を与えかねない、重度の感染源となっている歯の抜歯などを行い、歯科は、専門的なクリーニングや、ブラッシング指導を行います。まさに、歯科と口腔外科、そして医科が、一つのチームとなって、患者さんの命と健康を守るための連携です。また、高齢化社会が進む中で、在宅や施設での「訪問歯科診療」の需要も高まっています。そこでも、入れ歯の調整や口腔ケアは一般歯科医が、寝たきりの方の抜歯などは、訪問診療を行う口腔外科医が担うなど、それぞれの専門性を活かした連携が求められていきます。歯科と口腔外科は、もはや「歯医者さん」という枠を超え、全身の健康を支える、医療の重要な一翼を担う存在として、その未来を歩み始めているのです。
歯科と口腔外科、未来の連携は「口から全身の健康」へ