「舌がヒリヒリと、火傷をしたように痛む」「顔の片側が、電気が走るように、瞬間的に激しく痛む」。見た目には、口内炎や傷といった明らかな異常がないにもかかわらず、このような原因不明の痛みに長期間悩まされている方がいます。内科や耳鼻咽喉科、あるいは脳神経外科など、様々な病院を渡り歩いても、なかなか原因がわからず、途方に暮れてしまうことも少なくありません。そんな時、診断への道筋をつけてくれる「最後の砦」となり得るのが、「口腔外科」です。口腔外科は、口の中に現れる、あらゆる病気を鑑別診断するプロフェッショナルです。原因不明の痛みに対して、口腔外科医は、まず、考えられる全ての「器質的な疾患」、つまり、目に見える形での異常がないかを、徹底的に除外していくことから始めます。例えば、舌のヒリヒリ感(舌痛症、バーニングマウス症候群)を訴える患者さんに対しては、まず、唾液の分泌量を測定して「ドライマウス」の可能性を探ります。また、舌や粘膜の状態を詳細に観察し、カビの一種が原因である「口腔カンジダ症」や、粘膜が赤くただれる「萎縮性舌炎」などがないかを確認します。さらに、口の中にある金属の詰め物が原因でアレルギーが起きていないか、貧血やビタミン不足といった全身的な栄養障害がないかなどを、必要に応じて血液検査なども行いながら、一つ一つ丁寧にスクリーニングしていきます。また、顔面の突発的な激痛(三叉神経痛など)の場合も、その痛みの引き金となるような、歯の根の病気や、顎関節の問題、あるいは腫瘍など、口の中に原因が隠れていないかを精査します。このように、考えられる全ての原因を丹念に除外し、それでもなお痛みの原因が見つからない場合に、初めて「神経の機能的な異常」による痛み、つまり、脳や神経の伝達回路の誤作動による「舌痛症」や「非定型顔面痛」といった診断に至るのです。口腔外科は、単に手術をするだけの場所ではありません。様々な可能性を検討し、多角的な視点から、複雑で診断の難しい痛みの正体に迫っていく、「口と顔の総合診断科」としての、非常に重要な役割も担っているのです。
原因不明の口の痛み。口腔外科は「診断の最後の砦」